プロの運用者が記者会見で「今後 18-24 ヶ月、痛みが続く」と発言するとき、その言葉には自分の運用ポジションが入っている。
そうでなければ、「不確実性は高い」「ボラティリティが上昇する可能性」と曖昧に言って終わる。期間を絞り、痛みの内容を絞り、覚悟を語る——それは、自分でその痛みのポジション側に賭けている人だけがする発言だ。
2026 年 3 月 3 日、Bloomberg Invest カンファレンスで、Soros Fund Management の CEO 兼 CIO、ドーン・フィッツパトリックが、こう言った。
Fitzpatrick: 投資家は今後 18-24 ヶ月、痛みに直面する。
George Soros の元クォンタム・ファンドを今運用する女性である。彼女が期間を明示したことは、つまり、ソロスファンドがその痛みで儲けるポジションを組んでいる、ということを意味する。
「痛み」の正体は 2 つ
フィッツパトリックが具体的に挙げた痛みの中身は、2 つだけだ:
- AI に取って代わられる企業の急落:特にソフトウェア企業で、AI 機能の内部化やオープンソース化により価値破壊が進む
- 中東情勢の長期化:地政学リスクが資産価格に持続的に圧力
注目すべきは、彼女が 「2008 年型のクラッシュ」ではないと明確に否定したこと。彼女のシナリオは「ある日突然 30% 暴落」ではなく、**「じわじわ続く調整」**である。
| シナリオタイプ | 期間 | 下落幅 | 投資家心理 |
|---|---|---|---|
| 2008 年型クラッシュ | 数週間 | -40〜50% | パニック、現金化 |
| 1970 年代型調整 | 18-24 ヶ月 | -20〜30%、ただし長期 | 諦め、ポジション維持 |
フィッツパトリックは後者を想定している。
Voicestack の見立て
「じわじわ続く調整」が個人投資家にとって 2008 年型より厄介な理由は、逃げる瞬間が分からないことにある。
クラッシュなら、誰の目にも「危機」と分かる。逃げる人も逃げない人も、判断が早い。じわじわ型の調整は違う。毎月 1-2% ずつ下がっていく中で、毎月「もう底だろう、ここから戻る」と期待し続ける。18 ヶ月後、気がつくと 25% の含み損を抱えている。
これは個人投資家を最も削る相場の形である。
AI 革命の「3 段階モデル」
フィッツパトリックは AI ディスラプションを 3 つのフェーズで整理する:
Phase 1(2022-2023): AI への「期待」で AI 関連株が買われた
Phase 2(2024-2025): AI が実装され始めるが、雇用に大きな影響なし
Phase 3(2026 以降): AI に「代替される側」の企業が急落 ← 今ここ
これは「ChatGPT が出たから NVIDIA を買う」段階の終了宣言である。これからは、AI に置き換えられる側を空売る段階。
具体的に標的にされるセクター:
- カスタマーサポート系 SaaS(Zendesk 等のモデル)
- ローコード/ノーコード(AI が直接コードを書けるので不要)
- 一部のメディア・コンテンツ生成(AI が直接代替)
- 高給のホワイトカラー業務代行(コンサル・パラリーガル等)
Voicestack の見立て
これはドラッケンミラーの「Amazon・Meta にローテーション」とほぼ同じ視点だが、フィッツパトリックの方がショートサイドを明確に示している点が違う。
「AI 革命の勝者を当てる」より、「AI 革命の敗者を確定させる」方が予測としては簡単だ。置き換えられる業務は具体的に特定できるが、勝者は予想外に分散する。空売る対象を見つけられる運用者の方が、この相場では儲けやすい——というのが、現役 CIO の本音である。
プライベートクレジットの「地獄の苦しみ」
フィッツパトリックが追加で警告した領域は、ガンドラックと同じ:
Fitzpatrick: 公開市場から非公開市場に移った投資家は、リターンと流動性の両方で “world of hurt”(地獄の苦しみ)に直面する。
特に懸念対象は、米国の年金基金と大学エンダウメント。彼らは過去 5 年、低利回り環境を埋めるために、プライベートクレジットの保有を急増させてきた。流動性のあるはずの公開債券から、流動性のないプライベート債券へ移行した。
問題は、流動性ストレスが起きたとき、彼らが抜けられないこと。退職者への給付や奨学金の支払いは止められない。換金できない資産を 30-40% 抱えたまま、義務的な支払いが続く——これが「world of hurt」の中身だ。
ソロスファンドの実際のポジション
フィッツパトリックは具体的なポジションには触れなかったが、Form 13F 開示から推測できる傾向:
| 領域 | 直近の動き |
|---|---|
| 米国大型グロース | 減少 |
| ゴールド関連 | 増加 |
| エネルギー(特に原油先物) | 増加 |
| 防衛関連 | 増加 |
| プライベートクレジット ETF(空売り側) | 増加と推定 |
これらは「18-24 ヶ月の痛み」シナリオと完全に整合する。彼女の発言は、ポジションの確認である。
Voicestack の見立て
ソロスファンドの過去の動きは、マーケット転換点を 1-2 四半期早く捉えることが多い。1992 年のポンド危機、2007-2008 年の住宅バブル、2020 年のコロナショック後——いずれも先んじてポジションを動かしてきた。
「期間を区切って痛みを予告する」という珍しい発言は、過去のスコアカードと照らすと、警告として真面目に受け取った方がよい類のものだ。期間設定は 2026 年 9 月〜 2028 年 3 月 にかけて——次の景気後退(来るかどうかは別として)のタイミング論として、市場が頭に入れておくべき区間である。
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。