ある国の通貨が 100 年間で 99% 価値を失ったと聞いたら、その国はハイパーインフレ国だろう、と人は思う。ジンバブエとか、ベネズエラとか、第一次大戦後のドイツとか。
その国の名前が アメリカ合衆国 だとは、たいていの人は気づかない。
Greyerz: 1913 年の Fed 設立以降、ドルは 99%、1971 年のニクソンショック以降は 98% の価値を失った。残りの 1-2% は今後数年で失われる。
スイスの貴金属保管会社 Von Greyerz AG 創業者、エゴン・フォン・グライアーツが 2026 年 4 月の Substack でこう書いた。これはレトリックではない。購買力を金で測った実数値である。
99% という数字の検算
1913 年、金 1 オンスは 20.67 ドル。 1971 年(ニクソンショック前夜)、金 1 オンスは 35 ドル。 2026 年、金 1 オンスは 4,000 ドル超。
ドル建てで 1913 年比 200 倍、1971 年比 100 倍。つまりドルは金に対して 約 99.5% 下落している。
これを別の角度で言うと:「1913 年のあなたの 1 ドルで買えたものを、2026 年に買おうとすると 200 ドル払わなければならない」ということ。
Voicestack の見立て
学校では「インフレ率 2-3%」と教える。100 年で 200 倍は、年率に直すと約 5.4% である。日本の家計で「インフレ率は 2% です、安定しています」と聞いているとき、実はその裏で年 5% 規模の購買力毀損が静かに進行している——というのが、グライアーツが繰り返し指摘してきたポイントだ。
家計簿で見えない毀損が、最も恐い毀損である。
「残り 1-2%」の意味
「ドルが残り 1-2% を失う」と聞くと、控えめな話に見える。だが、これは絶対値のスケール感を見落とした解釈だ。
1971 年から 2026 年までで、ドルは 35 → 4,000 つまり 114 倍に減価した(金建てで)。 次の数年で「残り 1-2%」を失うとすれば、それは 同じ規模の購買力毀損を再度起こすことを意味する。
つまり、グライアーツの言う「数年で残り 1-2%」を真面目に取ると:
- 金 1 オンス:4,000 ドル → 数万ドル
- ドル建ての家賃・食費・教育費:いま払っている額の 2-5 倍
- 円建てで持つ円預金:実質購買力 数分の 1
これはハイパーインフレの域である。
Voicestack の見立て
グライアーツの数字をそのまま受け取る必要はない。彼は 15 年前から「金 1 万ドル」と言い続けてきた。だがその間、金は 1,200 ドルから 4,000 ドルへ 3 倍以上に上がった。「タイミングは外したが方向は当てた」というのが彼の過去のスコアカードである。
つまり問うべきは「いつ起きるか」ではなく「起きる可能性をどう取り扱うか」だ。家計の 100% を円預金で持つことが「起きないことに全額賭ける」ポジションだと気づくと、見え方が変わってくる。
通貨比較の罠
グライアーツが 2026 年に繰り返したもう一つの論点:
Greyerz: ドルの「他通貨比の強さ・弱さ」は、ノイズに過ぎない。すべての紙幣が金に対して購買力を失っている。
ドル円が一時的に円高になっても、それは「ドルが強い・円が弱い」を意味しない。両方とも金に対して下落している中で、相対的にドルがやや弱いだけ。真のベンチマークは金、というのが彼の世界観だ。
これは家計レベルでも当てはまる:
- 「円預金より米ドル MMF が安全」→ ドルも金に対して下がっている、相対的に円より少しマシなだけ
- 「日本円より外貨が安心」→ 比較対象が間違っている
- 真の保全対象は 「中央銀行が刷れないアセット」= 金、銀、不動産、優良企業の株式
Voicestack の見立て
これは「通貨建ての金額に騙されるな」というシンプルな主張である。
毎月の給料が 30 万円であることは事実だ。だがその「30 万円」で買えるものが、3 年で 10% 減り、5 年で 20% 減り、10 年で 40% 減る、という可能性を考慮した家計設計をしている人は、日本で何 % いるだろうか。
ほとんどいない。だから資産配分が「円預金 + 国内保険 + 持ち家」に偏る。グライアーツの主張は、その偏りを正面から疑え、という呼びかけである。
中央銀行が金を買う、という前例のない現象
グライアーツの主張に説得力を与えているのが、中央銀行のゴールド購入加速である:
- 2022-2025 年:BRICS 諸国・中東諸国がドル離れを開始
- 2026 年:年間 1,500 トン超のペースで世界の中央銀行が金を購入
- 中国・ロシア・インド・トルコ・ポーランドが買い手の中心
これは「個人投資家が金を買わなくても、金は上がる」状況を作っている。中央銀行という最大級のバイヤーが、構造的に金を吸い上げている。
金/銀比率も歴史的に高い:
- 歴史的平均:15-20 倍
- 現在:80 倍前後
つまり、金と比べて銀が異常に割安に放置されている。これが歴史的平均に戻る過程で、銀は金の数倍速で上昇する余地がある——ただし工業用途も大きいので景気後退時は脆い、という両面ある。
結論:シナリオではなく方向性
グライアーツの「ドルがゼロになる」シナリオが、その通りに実現するとは限らない。
だが、見落とせない事実がいくつかある:
| 事実 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 過去 113 年のドル購買力毀損 | 99% | 金建ての計算 |
| 中央銀行の金買い | 年 1,500 トン超 | World Gold Council |
| 米連邦政府利払い | 1.2 兆ドル / 年 | 米財務省 |
| 金 / 銀比率 | 80 倍(歴史的平均は 15-20 倍) | LBMA |
これらが続く限り、家計資産の 5-15% を金や銀に分散すること は、保険として合理的な範囲に入る——というのが、グライアーツ・ダリオ・ガンドラックなど、過去 30 年で成果を出してきた識者たちのほぼ一致した見解である。
「方向性は同じ、数字は意見が分かれる」——これが、家計レベルで真剣に向き合うべき結論である。
免責事項:本記事は情報提供を目的としたものであり、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。